2012年 第1号 「 金融商品取引法における比較情報について 」

1.はじめに | 2.導入の趣旨
3.比較情報の作成 | 4.比較情報作成に当っての留意事項
5.比較情報に対する監査手続き | 6.比較情報に係る監査意見

1.はじめに

平成23年4月1日以後開始する事業年度から「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(過年度遡及会計基準)に対応した連結財務諸表規則、財務諸表等規則、中間財務諸表等規則及び四半期財務諸表等規則等の改正が行われ、金融商品取引法において比較情報の規定が新設されています。

有価証券報告書においては、当期と前期の財務諸表が記載されますが、従来は、前期の財務諸表は、原則として前期に開示されたものをそのまま記載するというものでしたが、改正後は、前期の財務諸表は当期の財務諸表の一部を構成するものに変更され、当期の財務数値に対応する前期の財務数値は、期間比較の観点から必要な限りで修正・記載され、比較情報と位置付けられることになりました。

比較情報は、従来にない取扱いでありますが、その内容をまとめると次のようになります。

2.導入の趣旨

過年度遡及会計基準の導入に伴い、財務諸表の期間比較可能性及び企業間の比較可能性を向上させることが、財務諸表の意思決定の有用性を高めることができるとの観点から投資者に有用な情報を提供するため、金融商品取引法に比較情報の概念が新設されました。

これにより、会計方針の変更や表示方法の変更、過去の誤謬の訂正があった場合には、あたかも新たな会計方針や表示方法等を過去の財務諸表に遡って適用していたかのように会計処理又は表示の変更がされることになります。

なお、会社法では、単年度決算で当期1期だけの(連結)計算書類を作成するため比較情報は要求されていません。

3.比較情報の作成

(1)当期に係る財務諸表は、当該財務諸表の一部を構成するものとして「比較情報」(当事業年度に係る財務諸表(附属明細表を除く。)に記載された事項に対応する前事業年度に係る事項をいう。)を含めて作成しなければならない(財規第6条)となっています。

比較情報―適用される財務報告の枠組みに基づき財務諸表に含まれる過年度の金額及び開示をいう(監査基準委員会報告書第63号5(1)。

(2)有価証券報告書における前期の財務諸表は、当期の財務諸表と併記することとされていましたが、当期の財務諸表の一部を構成するものに変更され、当期の財務数値に対応する前期の財務数値の比較情報と位置付けされています

(3)比較情報としての財務数値は、過年度遡及会計基準に従って修正されたものですが、「前期に提出した財務諸表自体を全体として修正したものではなく、当期の財務数値に対応する前期の数値を期間比較の観点から必要な限りで修正・記載したもの」と説明されています(改訂監査基準の解説)。

したがって、当期に会計方針の変更や表示方法の変更、過去の誤謬の訂正があった場合には、新たな会計方針や表示方法等に従って前期の財務諸表が修正・記載されることになります。

(4)我が国においては、比較情報に関する会計基準がないため、比較情報に関する取扱いは、連結財務諸表規則、財務諸表等規則、中間財務諸表等規則及び四半期財務諸表等規則等で規定されています。

4.比較情報作成に当っての留意事項

(1)比較情報の位置付け

比較情報制度の導入により、有価証券報告書における財務諸表は、当期分と前期分の2期分の財務諸表という位置付けから当期の財務諸表及びその一部を構成する比較情報としての前期の情報という位置付けに変更されています。

〔従来〕

前期
(財務諸表) (AR)

(注記)

当期
(財務諸表) (AR)

(注記)

〔比較情報〕

比較情報
(財務諸表―当期財務諸表に対応する前期に係る事項(転記・調整))

【 注   


当期
(財務諸表) (AR)



記 】


なお、比較情報の作成にあたって必要な情報の範囲としての留意点が、財務諸表等規則ガイドライン6において、次のように記載されています。

@ 当事業年度に係る財務諸表において記載されたすべての数値について、原則として、対応する前事業年度に係る数値を含めなければならない。

A 当事業年度に係る財務諸表の理解に資すると認められる場合には、前業年度に係る定性的情報を含めなければならない。

したがって、財務諸表のうち、@の数値に関する情報にあっては、原則として、当事業年度の数値に対応する前事業年度の数値(該当する場合には、過年度遡及会計基準適用による遡及適用、修正再表示、誤謬訂正後のもの)が記載されますが、Aの前事業年度に係る定性的情報については、当事業年度の財務諸表の理解に資すると認められ場合には記載されることになります。

(2)当事業年度の数値に対応する前事業年度の数値の記載

会計方針の変更、表示方法の変更及び誤謬の訂正があった場合には、過年度遡及会計基準が適用され、前期の数値が組替調整され比較情報が作成されます。

<設例1>会計方針の変更があった場合(自発的な会計方針の変更)

たな卸資産の評価方法の変更(総平均法→先入先出法)があった場合には、前連結会計年度については遡及適用後の連結財務諸表となりますので、商品及び製品、利益剰余金、売上原価、営業利益、経常利益、税金等調整前当期純利益等の金額が組替られることになります。

【会計方針の変更】

  (たな卸資産の評価方法の変更)

当社における、商品及び製品の評価方法は、従来、主として総平均法によっておりましたが、・・・・のため、当連結会計年度から先入先出法に変更しております。

当会計方針の変更は、遡及適用され、前連結会計年度については遡及適用後の連結財務諸表となっております。

この結果、遡及適用を行う前と比べて、前連結会計年度の連結貸借対照表は、商品及び製品、利益剰余金がそれぞれ××百万円、××百万円増加し、前連結会計年度の連結損益計算書は、売上原価が××百万円減少し、営業利益、経常利益及び税金等調整前当期純利益がそれぞれ同額増加し、小数株主損益調整前当期純利益及び当期純利益が××百万円増加しております。

前連結会計年度の連結キャッシュ・フロー計算書は、税金等調整前当期純利益が××百万円増加し、たな卸資産の増減額が××百万円減少しております。

前連結会計年度の期首の純資産帳簿価額に反映された会計方針の変更の累積的影響額により、連結株主資本等変動計算書の利益剰余金の遡及適用後の期首残高は××百万円増加しております。

なお、1株当たり情報に与える影響は、当該箇所に記載しております。

<設例2>損益計算書における表示方法の変更の場合

例えば、前期の特別利益に固定資産売却益(400)を計上していたが当期は固定資産売却益に重要性がなくなった場合の比較情報の記載をみると次のようになります。(会計制度委員会研究報告「比較情報の取扱いに関する研究報告9」(公開草案)


(従来の表示)
(前事業年度) (当事業年度)
特別利益
 固定資産売却益 400  ―
 その他 300 500
特別利益合計 700 500
 
(比較情報―固定資産売却益が当期に重要性がない場合)
(前事業年度) (当事業年度)
特別利益
 その他 700 500
特別利益合計 700 500

(表示方法の変更)

(連結損益計算書関係)

前事業年度において、「固定資産売却益」は「特別利益」に表示しておりましたが、当事業年度において特別利益の100分の10以下となりましたので「その他」に含めて表示しております。この表示方法の変更を反映させるため、前事業年度の損益計算書の組替えを行っております。

この結果、前事業年度の損益計算書において、「特別利益」に計上していた「固定資産売却益」400は「その他」に含めて表示しています。

(注1)前事業年度に別掲されていた固定資産売却益400(特別利益)を当事業年度と同様に「その他」に組替て、その旨表示方法の変更の注記をすることになります。重要性の増加に伴う表示方法の変更についても表示方法の変更に含まれる(過年度遡及会計適用指針第4項)ことになります。

(注2)当事業年度に発生した固定資産売却益について重要性が乏しいと判断でき、営業外収益に計上することが適切である場合には、表示方法の変更には該当しないことになりますので前期の財務諸表の組替は行われないものと考えられるとされています(会計制度委員会研究報告「比較情報の取扱いに関する研究報告」(公開草案)9)。


(参考―固定資産売却益が当期に発生していない場合)
(前事業年度) 当事業年度
特別利益
 固定資産売却益 400  ―
 その他 300 500
特別利益合計 700 500

(注) 当事業年度に固定資産売却益が発生していないので表示方法の変更には該当しないことになりますので過去の財務諸表の組替えは原則として予定されないことになります(会計制度委員会研究報告「比較情報の取扱いに関する研究報告」(公開草案)9)。

なお、当事業年度の損益計算書関係の注記において、例えば、前事業年度まで「販売費及び一般管理費」として表示していた費目について、重要性が高まったことから独立科目として別掲することとした場合にも、表示方法の変更に該当するものと考えられますので、原則として、前期の注記の組替えを行い表示方法の変更に関する注記を行うことになります(過年度遡及会計基準第14項、第16項)。重要性がない場合には注記を省略することができることになっています。(会計制度委員会研究報告「比較情報の取扱いに関する研究報告」(公開草案)10)


<設例3>販売費及び一般管理費のうち主要な費目を変更している場合

例えば、損益計算書において販売費及び一般管理費の科目に一括して掲記し、その主要な費目及び金額を注記している場合に、重要性の観点から主要な費目を変更した場合には、次にようになります。

 

 (連結損益計算書関係)

*1 販売費及び一般管理費のうち主要な費目及び金額は次のとおりであります。

前連結会計年度 当連結会計年度
役員報酬 ×× ××
給料手当 ×× ××
減価償却費 ×× ××
旅費交通費 ×× ××
不動産賃借料  30  80

(表示方法の変更)

「不動産賃借料」は、当連結会計年度により、販売費及び一般管理費の総額の100分の10を超えたため掲記しております。前連結会計年度における「不動産賃借料」は30百万円であります。この表示方法の変更を反映させるため、前連結会計年度の販売費及び一般管理費のうち主要な費目及び金額の組替えを行っております。

(3)前事業年度の定性的(記述的)情報の記載

当事業年度の比較情報に記載に当って、前事業年度に係る定性的情報を記載するかどうかは、当事業年度の財務諸表の理解に資すると認められか否かによることになります(財規ガイドライン6)。

@ 前事業年度の重要な会計方針の記載

比較情報導入後においては、前事業年度と当事業年度の会計方針が同一である場合には、当事業年度の財務諸表及びその一部を構成する比較情報としての位置付けから、前事業年度の会計方針に関する注記は敢えて記載する必要はないと考えられています。当事業年度に会計方針の変更があった場合にも、原則として、遡及適用が行われることから、結果として比較情報としての前事業年度の会計方針は、変更後の会計方針と同一と考えられており、また、原則的遡及適用が行われない場合であっても、その理由及び影響額等の注記がされるところから変更前と変更後の会計方針の内容が当事業年度の注記事項として明らかにされているため、前事業年度の会計方針が理解できるため、前事業年度の会計方針の記載は必要がないものと考えられています

前事業年度に会計方針の変更等が行われた場合にも、変更後の会計方針等は当事業年度及び比較情報としての前事業年度の財務諸表に既に取り込まれているため、重要な情報とは考えられないため記載は不要と考えられています。

A 前連結会計年度の連結の範囲等に関する記載

例えば、当連結会計年度から新たに連結子会社となった会社がある場合には、「連結の範囲の変更に関する注記」によって開示されるため、当該注記と当連結会計年度における連結の範囲等に関する注記を併せて読めば、前連結会計年度における連結の範囲に関する情報が開示されていると考えられています。したがって、前連結会計年度における連結の範囲に関する事項は、敢えて記載する必要なないものと考えられています。

<事例>連結の範囲が変更になっている場合の記載

1.連結の範囲に関する事項

(1) 連結子会社の数

   ○社

   主要な連結子会社

     ××社  ○○社  △△社

前連結会計年度において非連結子会社であった△△社は、重要性が増加したことにより当連結会計年度より連結の範囲に含めております。 


B 特定の勘定科目との関連性が強い前事業年度の注記事項

財務諸表に記載される特定の勘定科目の金額に関する注記は、比較情報としての前事業年度の数値を理解する上で重要な情報であるところから財規ガイドラインの定めがそのまま適用されることになっています。

このような注記事項としては、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書及びキャッシュ・フロー計算書関係の注記事項とされているもののほか、次のものが考えられています。

・リース取引に関する注記

・金融商品に関する注記

・有価証券に関する注記

・デリバティブ取引に関する注記

・税効果会計に関する注記

・退職給付会計に関する注記

・ストック・オプション等に関する注記

・資産除去債務に関する注記

・賃貸不動産に関する注記

なお、これらの注記事項の中に定性的な事項も多く含まれていますが、全般的事項に関する定性的情報については、必ずしも前事業年度に関する事項を記載することが求められているわけではないとされています。前事業年度と内容が異なる場合には、財規ガイドライン6に規定されている「当事業年度に係る財務諸表の理解に資すると認められる」か否かを判断して記載するかどうか決定することとされています。

C 財務諸表全体との関連性の強い注記事項

必ずしも特定の勘定科目の数値との関連性が認められないが財務諸表全体の数値を補足する、例えば、次のような注記についても、財規ガイドライン6がそのまま適用され、前事業年度と内容が異なる場合に、前事業年度に係る注記情報を記載するかどうかに当っては「当事業年度に係る財務諸表の理解に資すると認められる」か否かが判断されるものと考えられています。

・持分法損益の注記

・開示対象特別会社の注記

・関連当事者との取引に関する注記

・親会社又は重要な関連会社に関する注記

・セグメント情報等の注記

D 比較情報が不要と考えられる事項

次に掲げる事項は、注記事項の性質上、比較情報制度に馴染まないと考えられるため、前事業年度に対応する事項の注記は不要と考えられています。

・企業結合に関する注記

・後発事象に関する注記

・継続企業の前提に関する注記

5.比較情報に対する監査手続き

財務諸表監査における比較情報に関する実務上の指針として監査基準委員会報告書第63号「過年度の比較情報―対応数値と比較財務諸表」が公表されています。

監査人は、適用される財務報告の枠組みで要求されている比較情報が財務諸表に含まれているかどうか、並びに当該情報が適切に表示及び分類されているかどうかを判断することになっています。

また、比較情報に重要な虚偽表示が存在する可能性があることに気がついた場合は、十分かつ適切な監査証拠を入手するため、必要と認められる追加的な監査手続きを実施することになっています。

6.比較情報に係る監査意見

@ 継続開示会社が提出する有価証券報告書・有価証券届出書に含まれる財務諸表については、比較情報を含む当期の1期分が監査範囲となります。

A 非継続開示会社が提出する有価証券報告書・有価証券届出書に含まれる財務諸表については、比較情報を含まない前期及び当期分がそれぞれ監査範囲とされています(財規附則、改正監査証明府令)。

B 比較情報に関する意見表明方式として、対応数値方式(財務諸表における監査意見は当年度のみを対象として表明される方式)と比較財務諸表方式(監査意見は財務諸表に表示された各々の年度を対象として表明される方式)がありますが、我が国では対応数値方式のほうが監査実務に馴染みやすいとされており採用されています。

C 平成23年4月1日以降開始する事業年度の有価証券報告書に添付される監査報告書は、当期分の1枚だけとなり、前期分の監査報告書の写しの添付は不要とされています。

D 比較情報が対応数値として表示される場合、特別な場合を除き(前期を前任監査人が監査している場合―監査報告書において「その他の事項」として記載される。)、監査意見において対応数値に言及しないこととされています。

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